about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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Sさんの瞳孔

ロッカー室で帰り支度をしていると、すぐそばで着替えていた同僚のSさんが「人と目を合わせるのが苦手」とこぼした。人の顔を見ないようにする癖があるらしく、ゆえに他人の顔を覚えるのにもかなりの時間を要すという。仕事柄、陳列された美術品に接触がないよう客の動向に注視せねばならないが、その際にも、顔は見ない。
「お客さんと目が合うと、気まずいから……その人の、動きとか、色、あと、声とかで、判断する―――」
それからはたと表情を変え、声を跳ねあげた。
「でも、電車のなかで化粧とかしてる人は、見ちゃうんです。顔が、できあがっていくのが、面白くて―――眉毛とか、粉とか、睫毛、あと口……よく、あんなふうに、丁寧に、できるなあって。たまに、“見てんじゃないよ”ってかんじで見てくる人がいるけど、だったら“お前も見てんだろ”って!」