about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

007

猫のいる酒屋

小さな酒屋の店先の、ちょうど陽の射すところに猫がいた。艶のない毛並みに華奢な体躯で、美しいとはいいがたい。それでも、光を反射する毛の真白さ、皮膚の薄い耳や鼻や目頭に鮮明な血色を透かす様相、目を細める癖のある表情に、ほかの猫ではどうにも代えのきかない感じがして、酒屋の前を通るたび姿を探すようになった。不在の日も多々あるが、たいていは店の通路をうろついていたり、来客の足下に行儀よく座っていたり、煙草売りのカウンターで店番をする婆さんと並んでいたりする。

その日猫はおらず、白い猫のぬいぐるみが酒瓶を陳列した台にあった。手足を伸ばして寛いだ格好で、細い目は糸の線で表されている。猫はもういないらしい。思い起こされる、紅を引いたような血色が、点から線、線から面へと広がり、昼光に猫の輪郭を浮かべる。像はふらふらと辺りを漂い、ぬいぐるみと重なっては離れる。

店主の気まぐれか、ぬいぐるみは度々場所を違えて置かれている。