about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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眠れぬ夜の飴

眠りにつくまでの冷たい水底に落ちてゆくような感覚は、子どもの頃の恐ろしいものの一つだった。ベッドに入ってから二、三時間目の冴えた状態で横たわっていることなどざらであったが、数年前からこうした不健全な睡眠事情は快方に向かいつつあり、恐怖心はとうに克服したものだと思っていた。

引っ越してきて最初の夜のことである。近くの大通りを行き交う車の音がしだいに人間の吐息や動物の唸りに変幻し、暗がりの部屋で偶然引きあわされた脈絡のない映像と混ざりあって膨れた。人間の想像力の鬱陶しさに苛立つ―――またこれが来てしまった―――それからは、昔からそうしてきたように、都合のよい物語やその場凌ぎに快楽の得られる淫乱な妄想をつぎはぎするのに終始する。「馬鹿になれば怖い夢を見ることはないのだ」と言い聞かせ、想像を想像で塗り替え、もとがどんな色や形だったかわからなくなるくらい滅茶苦茶に捏ねくり回し、甘すぎて反吐の出そうな空想にすり替えて目を閉じる。