about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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小さい世界-盆栽-

依頼の件で元上司と打ち合わせした後「小さなものに凝っている」という彼の買い物についていった。

一件目は盆栽屋であった。隣家とを隔てる塀沿いにつけた棚には立派な盆栽が並び、それらを脇に狭い通路を右に折れると入り口がある。入って正面の飾り棚には照明が当てられ、先ほど見たものより一層繊細そうな造作の盆栽がシルエットを際立たせていた。薄暗くこぢんまりとした店内は一見雑然としているが小物や棚には埃ひとつなく、まめに清掃されているのがわかる。店主らしい男は、自分より年若い客に愛想笑いこそ乏しいものの箱に盛られた土を指先で揉みながら盆栽の仕立てについて丁寧に説明し、元上司は黙って耳を傾けている。彼は店に入る前「難しくてすぐ駄目にしてしまう」「鉢を割ってしまった」とこぼしていた。盆栽に、別段興味はない。ないのだが、両手に収まる範囲に根を張り生きながらえる不思議な曲線を目で辿っていると、時間はすぐに経った。