about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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定点

電車を降りると、反対側のホームで背広の男が吐いていた。金曜日の夜にはありふれた光景である。ホームドアに拳をつけて俯く男の足元にはすでに粥のような吐瀉物が大量に散乱し、治まったかと思うとまた吐くのを繰り返していた。その吐瀉物が、赤ワインか何かのせいでか、むらのない見事なピンク色なのである。

あんなに具合よく色づくものだろうかと関心していると、それまで静かだった男が今度は声をあげて派手に噦(えず)いた。ゲロのピンクに気を取られて気づかなかったが、男から三四歩離れたところで十歳くらいの眼鏡の小太りの少年が口を半開きにし、胸の高さでリュックの肩紐を握り締め、片足を中途半端に踏み出した間の抜けた格好で固まっていた。