about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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更衣室のロッカー

勤め先の更衣室には、左右の壁沿いと部屋の中央に二段のロッカーが並び、社員はその中から一人につき一つを使うことができる。幅は30センチ足らずで鞄を入れると両脇の余裕がなくなり、丈の収まらないロングコートは手荷物の下敷きか上に積むかのいずれかになる。他人の息遣いや汗の匂いを傍に感じながら、社内に存在する唯一のプライベート空間であるこのロッカーの幅分からはみ出さぬよう、皆律儀に縮こまって動作する。人の気配があると所作にはそれとなく気を遣うもので、胸はなるだけ隠し、パンストには丁寧に足を通し、扉の開閉は静かに行う。こうした暗黙の了解によって公私の均衡は保たれているはずだが、どういうわけか菓子の小袋やレシートが足元のあちこちに散らかっている。部屋に一人きりになった時、他人の視線による力のみで閉ざされていたロッカーからは、押し込められていたプライベートが抗いようがなく流出するらしい。