about

焼け残った記憶を拾い、花を手向け弔う。その過程で生まれでたある一つの結論、ある一つの完成のかたちが、絵画だったり、物語だったりする。2017.12.18 マツウラミオ

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匍匐、登高、そして

樹葉の陰になった曲がり角の塀の縁を、赤茶色のぽってりした肉体が這っている。

蝉の幼虫である。動きが鈍く危なっかしい体の側面には、未発達の小さな白濁色の羽が仕舞われている。視界に入ると警戒して動きを止めてしまうので、少し離れてみた。塀に接した枝を伝って幹へと移動し、今度は木登りが始まる。

土の中より、地上は危険は多いだろうに。

なんらかの、確信があるのか。肉体の変化を含め、抗えない力が働きかけるのか。それともなにか、希望めいたものに突き動かされるのか。

しばらく眺めていると、蝉時雨を劈(つんざ)く激しい泣き声が住宅の群からあがった。まだ歩みの覚束ない赤ん坊だろう。小さな体から流れ出た絶望感の滲む、火を噴くような絶叫には、生への強烈な執着が仄めいている。危険に曝されながら無心に木を登るこの蝉の沈黙の内に、これと同じものが渦巻いているのか。

蟻たちの騒がしい流れに逆らって、蝉の幼虫は濃緑の陰翳に消えた。